単刀直入に企業としてのマーケティングを一言で言えば、『利益を生み出し続けること』です。
そもそもマーケティングは、教科書にも出てくる通り、4つの『 P 』すなわち、製品開発 (Product)、価格設定 (Price)、流通 (Place)、プロモーション (Promotion)をどのように設計していくのかが戦略の肝になり、マーケティングの役割は、これらの要素を一貫した戦略のもとで実行していくことです。
しかし、これら4つのPを計画して遂行していくためには、社内においては組織全体を巻き込み、顧客やパートナーを巻き込む活動が必要になります。
つまり多くの関係者やお客様を巻き込んでいく必要がありますが、そのために何が最も重要な要素になるでしょうか。
情熱でしょうか、専門知識でしょうか、革新的な製品やサービスでしょうか。
これらはすべて重要ですが、ビジネスで必要不可欠なものがあります。
それは、『利益』です。
自社内およびパートナーは利益が見込めるから協力してくれます。
顧客は価値やメリットを感じるから購入します。
従業員は報酬があるから働いてくれます。
全て誰かの利益(ベネフィット)ということになります。利益を生み出す具体的な計画を示せるマーケッターが、周囲の信頼を得ます。これができないと、説得力のないマーケティングになってしまい周囲を巻き込むことは困難になります。
例えば、プレゼンテーションの後で、
「具体的な収益はいくらになる予定ですか?」
「やってみないとわかりません」
このような会話では前に進めません。
マーケティングに期待されているのは、持続的な利益創出になります。
■マーケティング理論における価値創造
しかし、専門書においてマーケティング=利益創出という説明になっていないことが多く、また、幅広い解釈ができるため人によってマーケティングの理解がバラバラになっています。
例えば、フィリップ・コトラーは次のように述べています:
「マーケティングとは、交換プロセスを通じて人々のニーズやウォンツを満たすアクティビティである」Marketing is the human activity directed at satisfying human needs and wants through an exchange process. – Kotler 1980
Kotler Philip (1980), Marketing Management: Analysis, Planning and Control, 4th ed. Englewood Cliffs, NJ: Prentice Hall.
「マーケティングとは、個人や集団が、製品や価値を創造し、他者と交換することによって、必要なものや欲しいものを手に入れる社会的・経営的プロセスである。」
Marketing is a social and managerial process by which individuals and groups obtain what they need and want through creating and exchanging products and value with others. – Kotler 1994
Kotler Philip (1994), Marketing Management: Analysis, Planning, Implementation, and Control, 8th ed. Englewood Cliffs, NJ: Prentice Hall.
米国マーケティング協会の定義は以下の通りです。
「マーケティングとは、顧客、クライアント、パートナー、そして社会全体にとって価値のあるものを創造し、伝達し、提供し、交換するための活動であり、一連の制度であり、プロセスである。」
Marketing is the activity, set of institutions, and process for creating, communicating, delivering, and exchanging offerings that have value for customers, clients, partners, and society at large.
American Marketing Association. (2024, July 8). What is Marketing? — The Definition of Marketing — AMA. https://www.ama.org/the-definition-of-marketing-what-is-marketing/
これらの定義は抽象的に感じるかもしれませんが、要点は「顧客ニーズを理解し、価値を提供すること」と言えます。
■日本でも昔から存在する価値創造と利益についての考え方
マーケティングとは『利益』を生み出すことなのか、『価値』を提供することなのか。
この点については日本でも古くから言われている教えの中に答えがあります。
近江商人の経営理念「買い手よし、売り手よし、世間よし」、言い換えると『三方良し』という言葉は聞いたことがあるかもしれません。「商売において売り手と買い手が満足するのは当然のこと、社会に貢献できてこそよい商売だといえる」というものです。確かに、自社だけが儲かればよいということでは商売は長続きしませんよね。買い手の便益はさることながら、世間からも必要とされている事業であることが必要だと説いているのです。
更には、「日本資本主義の父」渋沢栄一(1840-1931)による『論語と算盤は両立させることができる』という言葉も同様の考え方になっています。「論語」は道徳(公益)、「算盤(そろばん)」は経済活動(私利)を言い換えたもになり、『私利』と『公益』は両立すべきという教えです。
現代では、ステークホルダーという言い方がありますが、自社に利益があるからこそあらゆるステークホルダーへ還元していくことが可能になります。お客さんは便益があるからこそ自社製品を購入してくれます。自社はその対価として利益を得ることができます。また、その利益があるからこそ、パートナー会社、従業員、株主にも還元していくことができます。これがマーケティング理論で言う社会全体への価値創造に繋がっています。
マーケティングとは利益を生み出すことなのか、価値を提供することなのか。という問いに対しては、答えはその両方にありますが、企業内のマーケターとしては、自社利益への貢献度合いが対外的な価値の大きさを示すことになるため、利益を生み出すことになるのです。

また、マーケティングとは、『売れる仕組みを作ること』という説明を目にすることがありますが、これはプロセスになります。このプロセスの結果として価値を創出して、利益を得て、還元していくことが可能になります。
自社が提供できる価値が大きければ大きいほど、得られる利益は大きく、還元することが出来る社会的価値も大きくなるというのが理想的な循環です。
このように企業活動の根幹を担うマーケターの役割は非常に重要になっていると言えるでしょう。